可愛らしさの欠片もない
「ごめ~ん、やってる?」
「あ、お疲れ様です」
「お疲れ、先にやってるよ?」
先輩が来た。
私は少し居て帰ろうと思ってる。
「うん、いいのいいの。何食べてる?私、取り敢えずお腹が空いてるから、ご飯もの食べたい。……えっと、これ、この鯛めしが食べたい。咲来さん、一緒に食べよう、注文して、私、お手洗いに行ってくる」
あ、ハハ。本当、急いで来たんだ。
「落ちつかない人ですね」
「そんなことないですよ。普段の、仕事のときとは全然違うから、なんだかチャーミングですよね」
「チャーミング?チャーミングっていうかな。…俺は咲来さんの方がチャーミングだと思うけどね」
「あ、それは、気を遣って頂き、誠に有り難うございます」
「嘘じゃないよ、本当だから」
「フフ、有り難うございます」
「…もう、本当なんだって…」
クスクス。
「有り難うございます。あ、鯛めし、時間がかかるかもしれないですよね、先に注文しないと」
「…そうだね」
ん?大島さん?気のない返事。
「私、そこそこ居たら帰りますから。あと、なんか早めに出来るもの、適当に頼んでおきましょうか。……何がいいかな、先輩…あ、ライスコロッケチーズ入り、これ直ぐ出来そう…」
「え、もう帰るの?」
「はい」
いつものことです。
「あ、すいませ~ん」
店員さんを呼び止め、注文を入れた。
「今日も、沢山飲むんですか?」
「いや、どうだろう。明日も仕事だからね」
「そうなると、やっぱりこの会は、金曜にするのがベストですよね。その方が心置きなく飲めますもんね」
あ、だけどこればかりを優先てことでもないか。同じようにプライベートを優先したい曜日でもあるものね…。
「まあ、そうだね」
あれ?さっきから…今日は大島さんちょっと違うかも。私にはその程度にしか解らないけど。きっと先輩ならそれ以上のこと解るのかもしれない。
「先輩、ちょっと遅くないですか…」
「あぁ、大丈夫だろ。混んでるんだよ、きっと、今日は女子会が多そうだから、ほら」
色んな組み合わせの席だが、圧倒的に女子だけのテーブルが多かった。ここ、本当にバラエティーで美味しいから。
「なるほど、トイレも混みそうですね」
「うん」
ブー。あれ?先輩だ。
【咲来さん、助けて】
え?
【急に始まっちゃった】
あ、はい。了解です。
【大至急、行きます】
持ってる、大丈夫。
「どうした?」
あ、そうだ。
「私もちょっと行ってきます」
「え?あ、ああ、うん」
「からあげ、じゃない、ミックスフライ、頼んでおいてもらえますか?」
「え?ミックスフライも?うん、解った」
適当に言い放ってお手洗いに急いだ。