可愛らしさの欠片もない
「あ、ちょっと、すみません、通してください。…ごめんなさ~い」
待っている女性に怪訝な顔をされた。決して割り込むつもりはない。
「先輩?…」
ドアの前で声をかけた。
「あ、咲来さん、ごめ~ん」
「大丈夫です。上から、落としますよ?」
「OK」
ポーチを出して上から見せて落とした。
「有り難う、助かった」
「じゃあ、取りあえず戻ります」
「うん、じゃあ、あとで」
珍しいと思った。どちらかといえば先輩にこんなミスはないのに。ちょっと、不順とかになってたのかもしれない。
「すみません、有り難うございました」
頭を下げながら戻った。
「あれ?咲来さんの方が先になったの?目茶苦茶早いじゃん」
あ。それは、…どうでもいいか。
「私はお直しだけに行ったので。行列とは無関係でしたから。やっぱり混んでましたね」
もう帰る準備かって、思われたかも。
「そうなんだ。あ、フライ、来てるよ」
そうだった。早いな。…揚げ物が多くなっちゃった。
「一緒に食べませんか?」
「うん、ああ」
お直しして、食べることも控えたと思われたかも。そうではないんだけど。先輩は大丈夫かな。鎮痛剤とかは要らない人だろうか。それも必要なら、私、持ってるけど。聞けば良かった。
「ごめん、お待たせ~」
アイコンタクトされた。
「鯛めしはちょっと、時間がかかるみたいですよ。後の物は直ぐ来ると思います」
「そうなんだ、でも待つわ、食べたいから」
「お酒は?」
「ゔん、今日は軽くにしておく」
「やっぱり明日に響くからね。俺も控えめにしとくよ」
「じゃあ、今日は早めに切り上げよう」
「そうですね」
あら、…では、私とそう変わりないかもになりそうだ。
「あ、久田さん、用があったって?」
「えっ?あ、そう、そうなの、本当、急に。ごめんなさいね、遅れてしまって」
……ん?、特に気にしなければ、だけど、なんだかちょっと様子が違うような。
遅れたからって、それを特に取り上げて、聞き方の感じ方によれば、どんな用だったのか知りたかったようにも取れた。
微妙なことだとは思ったけど。あまりそこに拘って触れなさそうな人だと思っていたから。
気になる人の動向は気になるものね。だからだったかもしれない。
でも、誰とだとか、何をしてたとか、そこまで私達に報告する義務はないから。用は用だ。