可愛らしさの欠片もない
甲斐さんの離婚問題は先輩ならよく知ってることだと、もう私は勝手に思ってる。
でも、だからといって訊ねてみようとは思わない。先輩のできた人間性によって丸く収めてもらってるところを、その芯の部分を探るなんてことは…気配りもない、デリカシーのかけらもない行為だと思うから。自分が好きな人のことを疑ってるようなそんな女に、私は何でもない、友人だと言い切ったのかって、がっかりさせてしまう。先輩だって思いはずっとあるのだから。
結局私は予定より居ることになり、三人揃って店を出ることになった。
「次は違うお店とかにしてみる?私、ピックアップしておこうか?」
「俺はどっちでも」
「私、今のお店、凄く好きですよ。本当、色んなジャンルのものが、それも美味しく食べられるから、ずっとここでもいいです」
「じゃあ、固定にしようか。それでなんとなくって思い始めたら変えようか」
「そうですね」
「それでいいと思う」
駅まで話しながら歩いた。
……そういえば…、また、気がつかなければ良かったようなことを思い出してしまった。
「私、駅こっちだから」
先輩が離れた。あ、私と大島さんは一緒ってことか。
「大島さん、先輩、送ってあげてください」
「えっ」
「ちょっと、具合悪そうだったので」
「そうだったの?」
「あ、はい」
「じゃあ、うん、そうするよ、気をつけて帰って」
「はい、おやすみなさい」
大島さんは軽く駆けて先輩を追った。直ぐ追いつくだろう。
駅までだとそんなに距離はないと思う。一緒に居る時間はそんなにないだろうけど。きっかけの一つにでもなればと思った。それこそお節介だとは思ったけど。色々だ。本当、色々な思いからだ。
多分、大島さんは先輩のことが気になってる。もしかしたら先輩も…、悪い人だとは思ってないと思う。先輩の気持ちを無理に大島さんに向けさせようとか、そんなつもりはない。…それではまるで、甲斐さんへの思いを私が剥ぎ取ろうとしてるみたいだし。そんなことではない。微塵も思ってない。
それだけではなく、私が大島さんと二人で居ることで誤解を生みたくなかったこともある。
それと、思い出してしまったということ。
それは、初めて大島さんと今のお店にご飯に行った帰りのこと。私は眠っていた。爆睡だ。
大島さんはおんぶして帰ったと言った。ずっと歩いて?
今の私のように電車には乗らなかったのだろうか。帰るなら乗るだろう。距離は、人によって感覚が違うとしても割りとあると思う。
タクシーを利用したのかもしれない。いずれにしても、下ろされたり、背負われたり、何度もされたら、いくら私だってちょっとくらいは目を覚ますと思う。
では、おんぶはずっとだったのだろうか。
なんだか…よく解らないことだし、思い出せもしないから、どうでもいいことと言えばどうでもいいことなんだろうけど。何時に家に着いていたか、それが解れば解ることではある。
駅を出て少しの距離、ではないということだ。
……複雑な気持ちになる。
「咲来さん」
「え?」