旦那様は懐妊初夜をご所望です~ワケあり夫婦なので子作りするとは聞いていません~

 庶務課は月末が近くても、のほほんとした雰囲気を自然に保っている。

 父のコネがなければ、私は秘書になどならず、こういう地味な部署で地道に暮らすことを選んでいたんだろうな。

 それとも記憶が戻り次第、二十五歳の私は秘書の仕事に戻りたいと思うんだろうか。

 そう思うと、記憶を取り戻すということは、今の私が別の人間になってしまうようにも思える。

 そういえば、この前私の名前を呼んだ男の人……。彼は誰なんだろう。

 頭の中にちょっとチャラそうだった彼の姿が浮かぶ。

 全然好みではないし、友達にもなれそうにない。私は元来真面目で優しそうな人が好きだ。

 いったいどういう関係だったのかな……。

 来月から新しく働き始めるパートさんのための書類を作りながら、そんなことを考えていた。

 家ではあまり考えないようにしている。彼のことを話題にすると、景虎があからさまに不機嫌になるからだ。

 やっぱり、景虎は彼のことを知っているのかな? しかも、よく思っていないんじゃあ。

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