旦那様は懐妊初夜をご所望です~ワケあり夫婦なので子作りするとは聞いていません~

 二人でデッキの先までゆっくりと歩く。彼が風に乱された前髪を掻き上げた。男らしい額のラインが露わになる。

 改めて見ると、やはりこの人は綺麗だ。イケメンとか美形と言うより、「綺麗」という表現がよく似合う。本人が喜ぶかどうかはわからないけど。

 クルーザーがベイブリッジの真下を通りすぎる。ふたりして上を見上げ、普段は見られない橋の裏側を観察した。

「こういう大きい建造物って、少し怖くない?」

「怖い? 思ったことないな。男はこういうの、カッコイイとしか思わないのかもな」

「私、大きすぎるクレーン車とか橋とか、怖いんだよね。建造物というよりも、眠っている恐竜のような感じ。突然壊れたり暴走したらどうしようと思う」

「はは。そういう感じ方もあるのか」

 彼は子供みたいな私の言い分を、否定せずに聞いた。笑いはしたが、バカにした雰囲気は感じない。

 私は彼の、そういうところが好きなのかもしれない。ふとそう感じた。

< 125 / 245 >

この作品をシェア

pagetop