旦那様は懐妊初夜をご所望です~ワケあり夫婦なので子作りするとは聞いていません~
彼はどんな私でも、受け入れてくれる。記憶を失って、結婚したことすら覚えていなくても。
料理ができなくても、危機感がなくても。職場で嫌われていても。そのままでいいと言ってくれる。
「萌奈」
急に繋いだ指先の温度が上がったような気がした。景虎の低い声は、今は私だけのもの。
「ほら、あっちを見てごらん。橋の向こうに最初に見た観覧車が見える」
「本当だ!」
真っ白いアーチの下に並ぶビルの灯りがチカチカと光る。オレンジや城の光に負けず、ピンクやブルーに色を変えて輝く観覧車。
まるで別世界のような景色に、心を奪われた。と同時に切なさがこみ上げる。
観覧車が見えたということは、クルーザーが港をぐるっと周遊して、船着き場に戻りつつあるということだ。
「もう終わりかあ……」
思わず呟くと、ふわりと背中が温かくなった。前に腕を回され、景虎に背中から抱きしめられたことに気づく。
「楽しかった?」
耳元で囁かれ、くすぐったいやら恥ずかしいやら。頬に熱が集中していくのを自覚する。