旦那様は懐妊初夜をご所望です~ワケあり夫婦なので子作りするとは聞いていません~

 庶務課の窓口前には、色んな会社の営業さんがずらっと並んでいる。「自社の製品を使ってください」という事務用品の会社から、「うちの弁当をとってください」という弁当業者など、その業種は多岐に渡る。

 そのような営業さんと話をするのも庶務課の役割。と言っても、誰でもその業務に就けるわけではない。単に書類を作るだけとはわけが違うのだ。

 今日は営業さんが多いので、話を聞く社員は忙しそうにしていた。永遠に続くと思われる長い列を見て、くるりとこちらを振り返った。

「鳴宮さん、ちょっと」

「は、はい」

 窓口で待たされている営業さんがこちらを睨んでいる。ような気がした。

「僕だけじゃ応対しきれないから、君に半分任せてもいいかな。話を聞いてもらって、「検討しておきます」と返せばいいから」

 メガネをかけた彼は、営業さんに聞こえないように小声で話す。

「ええっ」

 そりゃあ、どんな企業の売り込みでも、今すぐここで「採用します」なんて返事をするわけはないけれども。

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