旦那様は懐妊初夜をご所望です~ワケあり夫婦なので子作りするとは聞いていません~
「君は秘書課の経験があるから、外の人間と話すのに慣れているはずだ」
メガネをキラリと光らせ、七三分けの社員が私の肩を掴む。
「でも、もう少し経験を積んだ人の方が」
「いつも助けてくれる中村君が今月から育児休暇なんだよ。頼む、大丈夫だから」
そんなにいい加減でいいはずない。いくら秘書課の経験があるとはいえ、私はその記憶を一度失くしている。
助けを求めるように後ろを振り返る。けど、みんな目を伏せたまま、視線を合わせようとしない。
ちょっと気づいていたけど、ここの人って内向的で、初対面の人と話すのが苦手そう。その代わり、事務作業は早い。
「僕の後ろで一緒に話を聞いたことがあるだろ」
たしかに、一度応対の席に同席したことはある。色々な仕事を覚えるという名目の、ただの見学だと思っていた。
「先輩の応対の真似をすればいいんですね?」
「そうそう。頼むよ」
「うーん……わかりました」