旦那様は懐妊初夜をご所望です~ワケあり夫婦なので子作りするとは聞いていません~
こちらもしっかり話を聞き、言われた通り「検討します」と返して終わりにする。秘書課の経験が体から染み出てくるのか、自然と営業スマイルができたと自分で思う。
さて、次は六人目。そろそろお腹が空いてきたけど、集中集中。
「次の方、どうぞお入りください」
先ほどの企業の資料を片付けてながら、次の営業さんを呼んだ。
「失礼します」
「はい。こんにちは……」
ぱっと顔を上げて立ちあがる。相手の顔を見た途端、体が末端から凍り付いていくような感覚を覚えた。
そこにいたのは、スーツの男の人。だが、茶色の髪はだらしなく顎まで伸びており、握手を求めるように伸びた腕には品のないごつごつした時計が装着されている。
景虎と結婚写真を撮った日。帰り道で話しかけてきたあの男の人だ。
「見つけたぞ、萌奈」
彼は握手をするべき手でこちらの腕を無遠慮に掴んだ。力は強く、痛みを覚えた。
「俺との連絡を絶ち、何をやっていたんだ」
「あの、あなたは?」