旦那様は懐妊初夜をご所望です~ワケあり夫婦なので子作りするとは聞いていません~
長身で、皺ひとつないグレーのスーツを着こなしている彼は、二十五歳の私より少し年上だろうか。
黒い前髪の下の目に見つめられ、なぜかパジャマ姿でいることをすごく恥ずかしく思った。
なんていうか……美しい人。「カッコイイ」でも「イケメン」でもなく、「美しい」という表現が似合う気がする。
「やっぱり覚えていないか」
美しい彼が口を開いた。何かを覚悟していたような口ぶりだった。
「えっと……?」
「俺は君の夫だよ、萌奈」
「あー、夫ね。って、夫……? え? えええええええええええっ!?」
思わず廊下で大声を出してしまい、近くを通った看護師さんににらまれた。
私たちは病室の中に入り、私はベッドに、両親は椅子にそれぞれ座った。夫と名乗る人は私の正面に立っている。
「私、結婚してたの?」
見たことがないということは、忘れている五年間に出会って付き合って、結婚したということだろう。
そんなに大事なことも思いだせないなんて。
申し訳ないのと混乱で、彼の顔を直視できない。