旦那様は懐妊初夜をご所望です~ワケあり夫婦なので子作りするとは聞いていません~

 ということは、どちらかが嘘を吐いている。疑いの目を向けられた綾人は舌打ちをし、携帯を取り出す。

「ほら、これ。初めてデートで行った水族館」

 彼が差し出した画面には、青い水槽の前に立つ私の姿。スワイプすると、シャチの模型の前でピースする綾人と私。スタッフに撮ってもらったのだろう。

 綾人は今よりも髪が短く、小奇麗だった。私は緊張しているような遠慮しているような、微妙な表情をしている。

「こっちが誕生日にお前がくれた財布」

 見せられたのは、私がブランドもののお財布を顔の前に持ち上げた写真。たしかに、それらには私が写っていた。似ている誰かというわけではなさそう。

 他にも、綾人の車に乗った私や、豪華な食事をしている私が写っていた。信じたくないのに、証拠がどんどん出てくる。

「わかってもらえたか?」

 私はしばらく言葉を発せずにいた。カラカラに乾いた喉になんとかコーヒーを流し込み、呟く。

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