旦那様は懐妊初夜をご所望です~ワケあり夫婦なので子作りするとは聞いていません~

 自問自答して、ハッとした。

 景虎は最初から、私に「早く記憶を取り戻してほしい」などとは一言も言わなかった。そのままでいいと、もう一度恋をしようと、記憶を失った私を肯定ばかりしていた。

 それが彼の思いやりであり、想いの深さだと思っていた。しかし本当は、私に思い出されると都合が悪かったから、そう言っていただけ?

 自分の世界に入ってしまった私の頭に向かって、綾人の冷たい声が浴びせられる。

「お前たちは偽の夫婦だ。調べさせたら、お前たちは入籍すらしていないことがわかった」

「……なんですって」

「お前は姓の変わった保険証や身分証を見たか? 住民票は?」

 そういえば、見ていない。それらがいらない生活をしていたからだ。

 退院してから、生活のほとんどを他人の手に頼ってやってきた。運転もしない、買い物もしない。免許やクレジットカード、預金通帳などを触らなくても、全部景虎が手配してくれた。

 それも全部、偽の結婚を気づかれないためだった?

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