旦那様は懐妊初夜をご所望です~ワケあり夫婦なので子作りするとは聞いていません~

「そんなの嘘よ。いつかバレるに決まっているのに、わざわざ偽装結婚をする意味がない」

 いくら他人が身の周りのことをやってくれていても、私がいくらぼんやりしていても、いつかは気づくことだ。あの景虎や両親がそれをわからないはずはない。

「それは俺にもわからない。ただ言えるのは、まだ鳴宮とお前は夫婦じゃないってことだ」

「もうやめて……!」

 気づけば、綾人の言葉を遮るように叫んでいた。周りがざわつくのを感じる。

「嘘よ、そんなのあなたの意地悪だわ」

「じゃあ、今から市役所で戸籍抄本でも住民票でも取ってみたら。ああ、保険証すら渡されていないのか」

 顔を上げると、綾人は私を憐れむように見ていた。それほど自信満々に言うということは、入籍していないのは事実なんだろう。

「……どうして……?」

 目に涙が溢れてくる。婚約指輪をした左手が震えた。

 二人で撮った写真が一枚もない部屋を思い出す。変だと感じたのは、間違いじゃなかった。

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