旦那様は懐妊初夜をご所望です~ワケあり夫婦なので子作りするとは聞いていません~

「こいつに触るな!」

 よろけた景虎は体勢を立て直し、綾人をぎろりと睨んだ。綾人も負けずに睨み返し、景虎につかみかかっていった。

 胸倉をつかまれた景虎は、強い力で綾人の腕を握り、服を放させる。そのまま体を反転させると、綾人が宙に浮かんだ。

「きゃっ……」

 何がどうなったのか、わからなかった。私の目に一瞬映った一本背負いされた綾人。次の瞬間には大きな音と共に、アスファルトに叩き付けられていた。

「ぐわっ……」

 受け身を取り損ねたのか、綾人の顔が苦痛に歪む。景虎は汗一つかかず、涼しい顔をしていた。

「萌奈。行こう」

「でも……」

 この事態に気づいたのか、ホテルの従業員が近づいてくる。早く景虎の車に乗るべきだ。でも、本当にそれでいいのか。

 景虎がじっとこちらを見つめる。彼は捨てられた犬のような、傷ついた目をしていた。

 どうして、あなたの方がそんな目をするの。見つめ返していると、ふと景虎の背後で黒い影が動いた。

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