旦那様は懐妊初夜をご所望です~ワケあり夫婦なので子作りするとは聞いていません~
場面はなんの予告もなく移り変わる。今度は秘書課で働いている場面だ。佐原さんに嫌われながらも、一生懸命仕事をしている。
社内で偶然、副社長に会った。副社長は美男だけどいつも仏頂面で、私は彼を怖がっていた。
今度は図書室に副社長が座って本を読んでいる。私は近づいて、震える手で彼にお気に入りの本を渡していた。
「萌奈、萌奈!」
大きな声で呼ばれ、ゆっくりと目を開ける。そこには、心配そうにのぞきこむ景虎の顔があった。
視線を動かすと、綾人がホテルの警備員に羽交い絞めにされている。
「どうして俺を庇ったりしたんだ!」
怒鳴られて、涙が溢れた。けれど決して彼が怖かったからじゃない。
「あなただって……」
頭が痛い。頬が痛い。それよりも胸が痛くて壊れそうだ。
「どうして嘘をついたりしたの?」
景虎がハッと息を飲む気配がした。
「思い出しちゃった……。私、あの人と婚約していた。あなたはただの、怖い副社長で……」