旦那様は懐妊初夜をご所望です~ワケあり夫婦なので子作りするとは聞いていません~

「遅くなってごめん。お義母さんから、落ち着くまで待ってと言われたものだから」

「あ……い、いえ。大丈夫、です」

 他人のような受け答えをしてしまう。

「本当に、俺のことは何も覚えていないんだな」

 寂しそうに笑う彼に、胸が痛んだ。

「ごめんなさい」

 思わず謝る私の頭を、彼が優しく撫でた。

「謝るな。大丈夫だよ」

 彼が屈んだと思ったら、長い両手が開かれる。

 ぼーっとしていた私は、すっぽりとその中におさめられた。

「無事でよかった。一緒に帰ろう」

 みるみるうちに頬が熱くなっていく。

 彼にとってみればよく知った妻を抱きしめただけなんだろうけど、私にとってはいきなり初対面の男の人に抱きつかれたのだ。

 他人の体温がこれほど温かいと、初めて知った。ような気がする。本当はきっと、初めてではないのだろう。

「ちょ、ちょっと待って……」

 とんとんと彼の背中を叩くと、体を解放された。

 私は深呼吸をして息を整える。

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