旦那様は懐妊初夜をご所望です~ワケあり夫婦なので子作りするとは聞いていません~
「綾人ってひとが、私の婚約者だった」
「あなた、全部思い出したのね」
声を震わせた母に、私は首を横に振って応えた。
「残念ながら、完全ではないと思う。けど、ほぼ思い出した。どうして嘘を吐いて、付き合ってもいない人を夫だなんて言ったの」
「それは……」
母はちらちらと周囲を見た。救急センターのロビーには、何組かの患者がいる。
「景虎の会社が、綾人のお父さんの会社より大きかったから? 病院に利益があるから?」
「萌奈、ここでこんな話は」
「お父さんたちは私に『自由に生きればいい』って言ったくせに。どうしてこんなことしたの!」
大声を出すと、さすがに周囲の視線が突き刺さった。私は怒りに任せて母の横をすり抜け、大股で病院出口に向かう。後ろから追いかけてくる母の足音が耳障りだ。
「萌奈、うちに戻っていらっしゃい。お父さんが帰ってきたらみんなで話し合いを……」
「どうせうまいこと言って、私を丸め込む気でしょう。綾人さんと景虎と、全員揃わないと話し合いは成立しないわ。それに」