旦那様は懐妊初夜をご所望です~ワケあり夫婦なので子作りするとは聞いていません~

 数回図書室で会うと、景虎は仏頂面以外の顔を見せてくれるようになった。本を読んでいないときに雑談をして笑うこともあった。

 そして、いつの間にか私は景虎を好きになっていた。

 でも、私には婚約者がいる。両親が厳しいので体の関係こそないものの、政略結婚で綾人のものになる日は刻一刻と迫っている。

 私は毎晩、憂鬱になり、景虎を想っては苦しくなった。それでも、自分の口から婚約破棄を言いだす勇気がなかった。

 綾人は強引なところもあるが、基本的に私には優しかった。ただ、あまり仕事を真剣にしている様子がなかったのが、気にかかっていた。

 いい大人が「俺、親の敷いたレールに乗るのは嫌なんだよね。今時世襲制の会社なんて古いでしょ」ともっともらしい言葉を吐いて、親の会社で働かないことを正当化していた。

 他にやりたいことや目標があればそれもうなずけるけど、私には綾人が遊んで暮らしているようにしか見えなかった。

 悪い人ではないと思うけど、私はずっと違和感にまみれていた。

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