旦那様は懐妊初夜をご所望です~ワケあり夫婦なので子作りするとは聞いていません~
「そうだな、あんな全然好みじゃないつまらない女、結婚してしばらくしたらとっとと始末して……」
嬉々として語る綾人の背後に、ゆっくりと近づく。向かいに座っていた女性が私に気づき、口を開けた。
もう遅いわ。なにもかもね。
私はカップを持った手を掲げ、女性が声を上げた瞬間に傾けた。黒い液体が、綾人のつむじめがけて落ちていく。
ボタボタボタと、水が滴る音がした。カップから注がれたコーヒーが、彼の頭から首へ、幾本もの筋を描いた。
「おわあ!」
「なっ、なっ、なにっ!?」
女性は自分がコーヒーの被害に遭わないようにのけぞり、遅れて事態を察知した綾人は机に置かれたペーパーナフキンで必死に顔を拭う。
「つまらない女でごめんなさいね」
コーヒー塗れの綾人がゆっくり振り返る。私の顔を見ると、まるで幽霊に出会ったように椅子から転げ落ちた。
「も、も、も……」
「私があなたに負い目を感じることなんてなかったのね」