旦那様は懐妊初夜をご所望です~ワケあり夫婦なので子作りするとは聞いていません~
「それをなかったことにしてあげる代わりに、あなたは私と私の実家や家族に関わるのをやめてください。では」
もう一秒でも、綾人と同じ空間にいたくはなかった。大股でレジに近づくと、後ろから足音が追ってくるのがわかった。
「このっ……待てよ!」
綾人だ。慌てていてテーブルにぶつかったのか、食器が床に落ちて衝撃的な音が店内に響いた。
彼は私の手首をつかんだ。まるで、ねじ切ろうとでもしているくらいに強い力で。
「放してっ」
「お客様、暴力は困ります。どうか冷静に」
事態を重く見た店長らしき中年の男性がやってくると、なんと綾人はその人を殴り飛ばしてしまった。
「なんだよ。俺が全部悪いのか」
「はあ?」
「浮気されるお前にだって問題があるんじゃねえのかよ。あの御曹司をどうやってたらしこんだかは知らないが、お前みたいなつまらなくて可愛げのない女、すぐ飽きて捨てられるのがオチなんだよ!」
大きな声でがなりたてる綾人は、欲しいおもちゃが手に入らなくて癇癪を起こした子供のようだった。リアルな子供よりよっぽど性質が悪い。