旦那様は懐妊初夜をご所望です~ワケあり夫婦なので子作りするとは聞いていません~
それを聞き、私はひそかに安堵のため息を漏らした。
よかった。あれはちょっとハードル高いなって思ってたんだよね。
「平日はハウスキーパーが来るから、なんでも依頼しろ。今日は休みだから……」
話の途中で、インターホンが鳴った。戸惑ってまごまごする私の横をすり抜けた彼が、壁についているモニターでさらっと応対する。
「誰か来たの?」
「ああ」
やがて、玄関のベルが鳴った。やはり応対したのは鳴宮さんだ。彼が両手で抱えて持ってきたものは……。
「そ、その桶は」
黒い蒔絵風の桶を、彼がダイニングテーブルに置いた。続けて、キッチンに行ったと思うと、白ワインのボトルを持って戻ってきた。
「おいで。退院祝いをしよう」
招かれるままテーブルに近づくと、そこにはつやつやと光り輝くお寿司が。
やっぱり! この桶、見たことあると思った! 高級寿司店のお寿司だ。小さい頃からの大好物で、実家でお祝いごとがある度に食べていた。
心の中でガッツポーズをした。堪え切れない笑みが頬を緩ませる。