旦那様は懐妊初夜をご所望です~ワケあり夫婦なので子作りするとは聞いていません~
「目覚めたんですね。よかった。お名前確認させてください」
「綾瀬……萌奈です」
看護師さんがカートに乗ったノートパソコンに私たちの会話を記録しているのが視界の端に写る。
「お誕生日は」
私は素直に生まれた年月日を答える。ベッドを挟んでお医者さんの向かい側に立つ母が、うんうんと頷いていた。
母の頬は紅潮し、涙ぐんでもいた。
「ここはどこだかわかりますか?」
「えっと……病院ですよね? 多分、父の……」
父は大きな総合病院を経営している。私が搬送されるとしたら、父の病院以外ありえない。
父は仕事で忙しく、今も専用の部屋で働いているはずだ。
「はい。どうしてあなたはここにいるのか、覚えていますか?」
「それが、さっきから考えているんですけど、さっぱり」
ああ、と母が大きなため息を漏らした。
「あなたは交通事故に遭ったんです。タクシーに乗っていて、後ろから追突され、頭を強く打ったようです」
「うわあ、事故……。そうだったんですか」