旦那様は懐妊初夜をご所望です~ワケあり夫婦なので子作りするとは聞いていません~
彼女は私が佐原さんに辛く当たられる度にいつもそう言ってくれた。
「なんだか……ここにいると、どんどん思いだせる気がします」
佐原さんのこと、原田さんのこと。
彼女たちと過ごした時間が、断片的に頭の中によみがえる。
もっと思いだそう。そう、景虎と会ったときのこと。彼と過ごした日々のこと。
目を閉じて集中しようとしたら、くらりとめまいがした。
「萌奈ちゃん」
デスクに手をついてこらえる私を、原田さんが支えてくれる。
「無理をしてはいけません。副社長に、話は短時間で終えるようにと言われています」
室長が神妙な顔つきで近づいてきた。デスクの椅子を引かれ、座らされる。
「落ち着いたらタクシーを呼びますね。退社の手続きは、副社長を通して……」
「ちょっと待ってください」
自分でも意外な言葉が口から出ていた。
「復帰させてください、室長。完全に仕事を思い出すまでは迷惑をかけるかもしれませんが、ここにいれば元の自分に戻れるような気がするんです」