旦那様は懐妊初夜をご所望です~ワケあり夫婦なので子作りするとは聞いていません~

 どういうことだろう。結婚したばかりとは聞いていたけど、今の原田さんの言い方だと、まるで周囲に黙って結婚したみたいだ。

「仕事がしにくくならないよう、しばらく黙っていることにしていたんですよね。佐原さんみたいな人もいることですし」

 室長が補足した。

 周囲の嫉妬を避けるため、極秘入籍したってこと?

「じゃあ、あの悩んでいた相手とは……」

「原田さん」

 興味津々な目をして話し続ける原田さんを、室長が強い語調で止めた。

「彼女は普通の状態じゃないんです。一気に色んなことを言われても混乱してしまう」

「あ……ごめんなさい。ただ、結婚おめでとうって言いたくて……」

 たしなめられて、原田さんは口を閉じてうつむいた。

 しゅんとした彼女が気の毒で、何も気にしていないフリをした。

「いいえ。ありがとうございます」

 私としては、混乱してもいいから彼女が言うことを全部聞きたかった。しかしまたもやめまいに襲われてしまい、それは叶わなかった。


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