旦那様は懐妊初夜をご所望です~ワケあり夫婦なので子作りするとは聞いていません~

 帰宅してしばらくすると、めまいはおさまった。

「奥様、無理はいけませんよ。元気なつもりでも、心も体も事故のダメージが残っているのかもしれません」

 寝室で横になっていた私に、上田さんが温かいほうじ茶を持ってきてくれた。布団からもぞりと顔を出す。

「そうかもね……」

 事故の瞬間は覚えていない。が、記憶を失くすくらい頭を打ったということは、他の部分に支障をきたしていても不思議ではない。

 事故当初は首も痛かった。家の中で活動する分には支障なくても、外出して仕事をして……となると、心身共に自分が思っている以上の負担がかかるのだろう。

「それはともかく、奥様って呼び方はやめてくれない?」

 中世の貴族じゃあるまいし。上体を起こした私を上田さんは不思議そうに眺める。

「今までは、みんな奥様旦那様でしたよ?」

 それって、昔の家政婦が殺人事件に巻き込まれる有名ドラマの影響かしら。

 上田さんは家政婦派遣所に登録しているので、そこでは奥様旦那様と呼ぶ教育がされているのかもしれない。

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