旦那様は懐妊初夜をご所望です~ワケあり夫婦なので子作りするとは聞いていません~
ぐっと息がつまるのを感じた。
景虎って、佐原さんとの方が相性がいいんじゃ……いや、似た者同士で反発するか。
「わかってるよ……。だから雑用とか……」
秘書室のみんなや社長の役に立てないどころか、迷惑をかけるかも。
そう思うとゴリ押しもできなくなり、彼のシャツを掴む手の力が抜けていく。
「心配だな。あそこには君を目の敵にしている人物もいるんだろ?」
佐原さんのことだろう。彼女こそ、めまい持ちの記憶喪失女がウロウロしていたら嫌がるだろう。
「あの人は悪い人じゃないんだよ」
「秘書としては優秀らしいな。安心しろ、個人的なことと査定は別だ」
景虎はふうと小さくため息を吐いた。
「じゃあ、秘書室以外ならどうだ」
「と言いますと?」
「記憶がなくてものんびり働ける場所なら、短時間行ってもいい」
別の部署ならってことか。でもそれだと、意味がないような。
「ちなみにどこ?」
「庶務課とか」
庶務課か……秘書課のときに出入りしたことがあるだろうか?
思い出そうと試みたけど、さっぱりだった。