こっちを見て。
「……なんだよそれ」
「うふふふ」
「馬鹿だな」
「えへへ、そうかなぁ?」
「……馬鹿って言われて喜ぶなよ」
俺はにやけそうになるのを堪えながら、それを隠すように陽葵の顔を押して向きを変えた。
ほんとに馬鹿だ。
……どんだけ素直なんだよ。
「あ、咲花さん」
ふと、教室内に入って来た松川が俺達の方へ声を掛ける。
陽葵の視線は俺から松川へ移された。
「俺これから買い出し行くんだけど、どうする?1人で行って来ようか?」
「え、私も行くよ!荷物多いだろうし」
「いや、そんなに多くはないよ」
「でも私も実行委員だし、仕事させて!」
「……あはは、分かったよ。ありがとう」
満足気に微笑む陽葵と優しく微笑む松川のやり取りが見える。
……なんだこの、気に食わない感じ。
妙に松川にイライラしてしまう。
おかしい。
さっきまで滞りなく進んでいた筆もいつの間にかペースが落ちている。
俺はそんなイライラを払拭するように少し頭をぶるっと振った。
「じゃあ行こっか。宗くん頑張ってね!」
「……おう」
立ち上がりながら俺の肩を軽く叩く陽葵。
陽葵の気配が無くなった隣が、わずかに寂しい気がする。
俺は教室を仲良く出て行こうとする陽葵と松川の背中を目で追った。
2人の背中が視界から消えると、代わりに野口が俺の視界にぬるっと入って来た。