こっちを見て。
――ガコンと音を立てて缶ジュースが落ちてくる。
俺は取り出し口から野口の分のジュースを拾った。
野口とのジャンケンで負けた俺はジュースを奢らされているのだ。
なんでもいいけど、あいつジャンケン強過ぎだろ。
今まで多分、勝ったことない。
ジャンケンだけはな。
俺は缶ジュースを2つ抱えて中庭から校内へ入ろうと踵を返した。
「うわっと!」
「わ、大丈夫?」
男女の声が下駄箱付近から聞こえて、俺の足は止まる。
自動販売機は下駄箱のすぐ横の中庭に設置されている為、上履きの状態ではここからしか校内へは入れない。
なんとなくその男女と顔を合わせたくなくて、彼らが先に去るのを待とうと思った。
「あはは〜、私よくつまずいちゃうんだよね。ごめんごめん」
「ここの段差は割と皆つまずきやすいし、咲花さんだけじゃないよ」
……あ。
そこにいるの、陽葵と松川か?
買い出しから戻って来たところか。
「あ、そうなの?じゃー危ないね、ここ」
「うん、そうだね」
なぜか立ち止まって呑気に会話をする2人。
おい、何やってんだ。
とっとと教室戻れよ。
俺も戻れないだろ。