こっちを見て。
「あ、咲花さん」
その呼び声に俺の足はぴたりと止まる。
それと同時に俺の眉間には勝手にシワが寄った。
……また。
「うん?どうしたの松川くん」
「これ、咲花さんの資料。俺のと多分入れ替わってる」
「え、うそ!?……あっ、ほんとだ!ごめん!」
あわあわと先程鞄にしまった資料を取り出して松川と交換する陽葵。
俺はそんなやり取りを何も言わずじっと見つめてしまっていた。
そこでぱちっと松川と目が合う。
「引き止めちゃってごめん支倉くん。あと、部活忙しいのに準備手伝ってくれてありがとう」
「……別に。その為に部活休みになってるし」
「じゃあまた明日ね2人とも。お疲れ様」
「松川くんもお疲れ様〜!」
満面の笑みで松川に手を振る陽葵。
俺もぺこっと松川に会釈をして教室を出た。
……気に食わない。
松川が普通に良い奴過ぎて、気に食わない。
俺はこんなに性格悪いのに。
なんであいつは好きな人が別の男と帰ろうとしてるのに、あんな爽やかに笑ってられるんだよ。
余裕ってこと?
あいつにとって俺こそ眼中になかったりすんの?
なんで俺がこんな風に焦らなきゃならねぇんだよ。