イジメ返し―新たな復讐―
「ちょっとごめんね……」

人波をかきわけてトイレの中に足を踏み入れると、中にも大勢の生徒がいた。

困惑したような表情を浮かべる人がいる一方、これから何が起こるのかを目を輝かせて楽しそうに見ている野次馬がいるのも事実だった。

洋式のトイレの個室の入り口に数人が集まり、ホウキを使って便器の中から上履きを取り出そうとしているようだ。

「あっ、出た出た!床に置こう!」

一人が指示を出す。わたしは野次馬に混じってその様子を呆然と眺めていた。

やめて。取り出さないで――。

わたしは心の中で祈った。

予鈴が鳴って、みんなが教室に戻ってくれたらどんなにいいことだろう。

そうすればわたしはゆっくりと上履きを便器から取り出すことができる。

そして、こっそりと持ち帰って洗うことだってできる。

何が一番辛いか、それはわたしが誰かにいじめられているという事実を知られることだ。

いじめられている奴だっていうレッテルを貼られてしまうのが一番怖い。

いじめられているわたしをみんなは見下すだろう。

このトイレにはクラスメイトだけでなく違うクラスの子だっている。

その子達にまでわたしがいじめられているということを知られたくはない。

わたしにだって自尊心もプライドもある。

その自尊心をもカスミちゃんは傷付ける。

カスミちゃんはきっと分かっていて昼休みというこのタイミングを狙って便器の中に上履きを押し込んだんだろう。

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