イジメ返し―新たな復讐―
……ううん、一度は差し伸べてくれた。
便器の中に押し込まれていた上履きを拾って洗ってくれた。
真紀にはいいところがたくさんある。それはきちんと頭の中で理解している。
幼い頃から両親の顔色を伺いながら生きてきたわたしと真紀は根本的に違うのだ。
真紀はよく『愛奈の家が羨ましい』と零していたけど逆だ。
わたしが真紀が羨ましくてたまらなかった。
父親を早くに亡くして、シングルマザーになったお母さんに真紀は愛情たっぷりに育ててもらっていたのだ。
その結果、真紀はよく言えば人を疑わないぬるま湯につかった純粋な平和主義者。
悪く言えば、鈍感で危機感ゼロで無神経な人間になった。
この日、わたしは真紀と一言も口を利かなかった。
放課後にわたしの席にやってきたカスミちゃんはわたしが差し出した1万5千円をひったくる様に掴むと無造作にポケットの中に押し込んだ。
「明日は映画に行きたいから、1万もってきてよ」
カスミちゃんは吐き捨てるようにそう言うと、わたしに背中を向けて歩き出した。
「志穂、真紀、行くよ」
名前を呼ばれた真紀が立ち上がりこちらを見た。
何かを言いたそうな顔でわたしを見つめる真紀。
でも、わたしは真紀から視線を外した。すると、真紀はそのままカスミちゃんの後を追いかけて教室から出て行った。
「ちょ、ちょっと、待ってよ!」
その後ろに慌てた様子の志穂ちゃんが続く。
ずっと思っていた。
志穂ちゃんのことをカスミちゃんの犬だって。
ご主人様にしっぽを振ってついていく犬だと思って心の中で見下していたけど、まさか真紀も一緒だったなんて信じられない。
グッと奥歯を噛みしめる。
真紀……わたし忠告したからね。
ちゃんと忠告したんだから。
カスミちゃんと一緒に行動していればいつか痛い目に合う。
それを確信を持って言える。カスミちゃんは仲良しの志穂ちゃんのことも友達となんて思っていないだろう。
自分の言うことを素直に聞く人間がカスミちゃんは好きなだけ。
もし少しでも刃向かおうとすればカスミちゃんはすぐに牙をむくだろう。
心の底から疲れ果てていた。家に帰って少し仮眠を取ろう。
最近、心労からか眠りが浅くなってしまっていた。
ゆっくりとした動作で立ち上がりバッグを肩にかけて歩き出す。