イジメ返し―新たな復讐―
先生は分かってくれていた。わたしの気持ちを全部。先生だけは分かってくれていたんだ。

ただそれだけのことが無性にわたしの胸を熱くさせた。

「先生もね、学生の時色々うまくいかないことがあったの。イジメられたこともあるのよ。源田さんにも指摘されちゃったけど、昔から真面目だけが取り柄の面白みなんて何もない子だったから。だから、学校の先生になろうって思ったの。悲しんでいる子がいたら寄り添ってあげたいって思った。私が子供の頃、寄り添ってくれる人は親以外にいなかったから」

「先生も……イジメられてたんだ……」

「そう。いじめってきついよね。やられた方はずっと引きずるもの。でも、私は人の痛みに気付ける人間になったし、自分がされて嫌なことは人にしてはいけないって学んだの。今は結婚もして愛する人もできて幸せだって胸を張って言える。赤ちゃんのことは残念だけど……私は天国へ行ってしまった赤ちゃんの分までしっかり生きるって決めたの」

先生は覚悟を決めたようにそう言った。

「あっ、先生。うち、ここです」

「あらっ。大きくていいおうちね。大豪邸じゃない」

先生がブレーキを踏み込むと、車はゆっくりと家の前で止まった。

「先生」

「なに?」

「先生、学校辞めちゃうんですか……?」

噂になっていた。伊藤先生は退院後、学校を辞めて旦那さんの実家がある東京へ引っ越すと。

それに、さっき職員玄関から出てきた先生の手にはたくさんの荷物があった。

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