きみと秘密を作る夜
「でも、だったらどうして今更、離婚なんて」

「子供ができたんだって」

「え?」


子供?

晴人の、異母兄弟ってこと?



「気持ち悪ぃだろ。40過ぎたおっさんが、離婚も避妊もしねぇで、今更、子供ができちゃいましたって、笑えねぇよな?」

「………」

「それで、向こうと結婚するから離婚してくれってさ。責任っつーの? まともな旦那でも父親でもねぇやつが、何ふざけたこと言ってんだよって感じだよ。俺らと向き合いもしないでさんざん逃げまわっといて、どんな顔してそんなことが言えんだかな」


晴人はどうでもよさそうに言うけれど、傷ついていないわけがない。

だけど、かけるべき言葉が見付けられない。


晴人は自嘲気味にふっと笑った。



「おっさんの親が金持ちでさ、慰謝料たんまりくれて、家もそのままでいいって。母さんも仕事あるし、学校のこととかもあるから、名字もそのまま使うって」

「………」

「別にさ、あんなおっさん、元からいなかったようなもんだから何も変わんねぇし。むしろ、やっと離婚したかって感じ? 今はせいせいしてるよ」


本当に?

本当にそう思ってる?


でも、晴人は、必死で自分にそう言い聞かせているのだと思った。



「つーか、俺、何言ってんだろうな。余計なこと喋りすぎたわ」


晴人はまた息を吐き、伸びた髪を掻き上げた。


寒さが、体の芯まで浸食していく。

失った熱は、もう取り戻せないのだろうか。
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