きみと秘密を作る夜
昼になり、案の定、うとうとし始めたあさひを引き連れ、購買へ向かうために廊下を進んでいると、見知った顔と目が合った。
向こうはにっこりとした笑みを向けてくるが、しかし私はどう反応すればいいかもわからず、いつも目を逸らして無視してしまう。
竹田くんだ。
同じ中学から西高に進学したのは、何の因果か、私と竹田くんだけだった。
入学式の日に「小泉さん、よろしくね」なんて笑顔で言われたが、相手は仮にも晴人の親友だ。
晴人から何か聞いているのか、あの噂のことをどう思っているのか、聞くに聞けない私は、竹田くんと廊下ですれ違う度に、なんとも言えない気持ちになる。
「リナ。今の人って誰?」
「同中だった人だよ。E組の竹田くん。でも別にそんなに話したことないし」
「何か訳ありっぽい空気じゃなかった?」
嫌に鋭いが、しかし私と竹田くんの間に何かあるわけではない。
「そんなわけないでしょ。それより、ほら、眠気覚ましに炭酸買ってあげるから、しゃきっと歩きなよ」
私の言葉に目を光らせたあさひは、「やったー!」と、飛び付いてきた。
素直に感情表現できるあさひを、私は心底羨ましく思う。