きみと秘密を作る夜
酒屋の角を曲がると、ご近所さんたちが話し込んでいた。
「見た? 桜木さんのところ。今度はバイクよ」
「やっぱり片親だとダメねぇ」
「しつけがねぇ。ほら、奥さんも若いし」
「やだ、もう『奥さん』じゃないでしょう?」
くだらない。
本当にくだらない。
「片親といえば、小泉さんのところもそうよ。夜の森でいかがわしいことをして騒ぎになったのに、まだスカートを短くして、懲りずに男の子を誘っているなんて」
「嫌よねぇ。昔はこのあたりも平和だったのに、あの子たちの所為で」
そこまで言ったところで私の姿に気付いたらしく、ご近所さんたちは曖昧な笑みのままに、慌てて家の中に入って行った。
気まずいと思うなら、もっと小声で話せばいいのに。
ため息混じりに私も家の玄関を開ける。
「ただいま」
帰宅してすぐに、私は祖母の部屋へ向かった。
「おばあちゃん、起きてる?」
そろりとふすまに手を掛けると、「おかえり」と言いながら体を起こした祖母は、直後にごほごほと咳込んだ。
私は慌ててその背中をさする。
「大丈夫?」
「大丈夫だよ。心配ないさ」
細くなった体で、それでも気丈に振る舞おうとする祖母の姿が痛々しい。