きみと秘密を作る夜
しかし、期待に反し、映画館を出る私の足取りは重かった。
「……最悪」
最悪な映画だった。
タイトルや予告からは単純明快なアクションを売りにしていると思っていたのに、そこかしこで血しぶきが飛んだ時には、本気で帰りたくなかった。
洋邦、新旧問わず、何でもありの私だが、ホラーとグロいのは苦手だ。
そりゃあ、人気がないわけだよ。
っていうか、チケット代を返せと言いたい。
「気持ち悪い……」
首が落ちる残像が、まだまぶたに鮮明だった。
空腹も手伝い、本気で気持ちが悪くなってきて、私はよろよろと壁に手をつく。
と、その時。
「なぁ、大丈夫?」
頭上からの声に、力なく顔を上げた。
茶髪の男に、覗き込まれていた。
どこかで見た顔だなと、ぼんやりと思っていたら、男が突然、「あっ!」と声を上げたから驚いた。
「リナだよな? 俺、覚えてない? ほら、前に会ったじゃん! あさひの友達の!」
言われて初めて思い出した。
と、いうか、言われるまでその存在すら忘れていた。
「えっと……」
「遼だよ。船橋 遼」
「あぁ、うん。遼くんだよね。覚えてるよ」