きみと秘密を作る夜
私は精一杯で愛想笑いを返したのだけれど、



「『遼』でいいよ。あ、気分悪そうだけど、大丈夫? 俺ちょっと飲みもの買ってくるから、そこのベンチに座ってなよ」


と、遼くんは――遼は、早口にそう言って、走って行ってしまった。


何だかなぁ、と思う。

けれど、思考する気力もなく、私は言われた通りにベンチに座ってうなだれていた。



しばらくしたら、飲みものを手にした遼が、急ぎ足で戻ってきた。



「炭酸、苦手じゃない? これ飲んだらちょっとはすっきりすると思うから」

「……ありがと」


今は素直に受け取り、私はそれを喉の奥に流し込む。

喉から胃に向けて、冷たさが通り、本当に少しだけ気持ち悪さが軽減した。



「つか、もしかして同じ映画観てた?」

「だと思う」

「血がどばーっと」

「言わないでよ。思い出すじゃない」

「あれ詐欺だよな。予告詐欺。もはやアクションじゃなくてただの猟奇殺人だから」


笑いながら言う遼につられて、私も少しだけ笑ってしまった。

遼は、ふと私に目をやった。



「よかったな。ちょっと顔色よくなってんじゃん」


無邪気な顔で笑う遼を見て、チャラそうな見た目だけど悪いやつではないのだろうなと私は思った。

それによく見ると、人懐っこい犬のような顔だ。
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