きみと秘密を作る夜
「あ、おい、遼!」


歩き出そうとした遼を、集団は引き留めようとしたが、しかし逆に睨まれた。



「お前ら、マジでうるせぇから消えろよ」


いつも犬みたいな人懐っこい顔で笑っている遼が、初めて見せた怒った顔。

遼の怒りに驚いた様子の集団は、顔を見合わせ、押し黙った。



「行こう、リナ」


もう一度言い、今度こそ歩き出した遼。

どうしたものかなと思ったが、ここで立ち尽くしているわけにもいかず、私も遼の背を追った。


早足に歩いているうちに、駅まできた。



「ごめん」


遼は神妙な顔をしている。



「ごめんな。あいつら、悪気はないと思うんだけど、だから余計に悪いっていうか」

「別に私は何も謝られるようなことはないよ」

「いや、まぁ、そうなんだけど」


何だか歯切れの悪い言葉にもやもやするが、しかし電車の時間が迫っていた。

これを逃すと次は40分後だ。



「私もう帰らなきゃ」

「だよな。ごめん。また連絡するから」


遼は謝ってばかりだ。

それでも、構内からアナウンスが聞こえてきたので、私はそれ以上の言葉を諦め、「またね」と遼に背を向けた。


背中に感じる遼の視線が、何だかとても痛かった。

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