きみと秘密を作る夜


昼は汗ばむほどの陽射しだが、夕方になる頃には、風が出てきていくぶんか過ごしやすく感じる毎日。

課題を終わらせた私は、祖母に声を掛けた。



「おばあちゃん。ちょっと涼しくなったから、出掛けない?」


私の言葉に、祖母はうなづき、笑みを見せてくれた。



春以降、祖母は徐々に歩ける距離が減り、代わりにベッドで過ごす時間が増えていた。

このままでは本当に寝たきりになってしまうと危惧した私は、涼しい時間を狙い、なるべく毎日、祖母と出掛けるようにしているのだ。


介助して祖母を車椅子に乗せ、私はハンドルを押し進める。



「今日は海の方に行ってみようか」


祖母はまたうなづく。

蝉時雨がうるさい街路樹の下、坂道を下っていく。



「暑くない? おばあちゃん」

「大丈夫だよ。それよりリナちゃんの話を聞かせてくれないかい?」

「んー? 今日は何の話がいい?」

「じゃあ、今日は、お友達の話を聞かせておくれ」

「友達かぁ」


散歩中、祖母はよく私の話を聞きたがる。


学校は楽しいか、勉強は難しくないか、最近は何かおもしろいことがあったか。

どんなにつまらない話でも、祖母が笑ってくれるのが嬉しかった。

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