きみと秘密を作る夜
「拾ってくれてありがとうね、ハルくん」


祖母の笑みに、悲しくなる。


図らずも、ここは、私と晴人が初めて出会った場所。

あの日も今日と同じような夏の夕暮れ時だったが、しかし状況はまるで違う。



「あちぃから気つけろよ」


晴人は一言だけ、祖母にそう言葉をかける。



「ハルくーん? ねぇ、そろそろ行こうよー」


カノジョの声に振り向いた晴人は、そのままこちらに背を向けた。

その目が再び私の方に向くことはない。



晴人とカノジョは、砂浜を歩く。

カノジョは何が楽しいのか、きゃっきゃとはしゃぎながら、晴人の腕に絡まった。


なんて無邪気で可愛い子。



「私たちも行こう」


今度こそ、私は祖母の車椅子を押す。


祖母は晴人のことには触れない。

病床の祖母に心労をかけていることを、私はひどく申し訳なく思った。



「ねぇ、今日の晩ご飯、何にしようか」

「たまにはおばあちゃんも一緒に作ろうかねぇ」

「ほんと? じゃあ、久しぶりに煮物にしようよ」

「そうだねぇ。そうしようか」

「やったー!」


もしもあの日、私たちがこの海で出会わなければ、『今』は変わっていただろうか。

なんて、自問自答したところで、もう何の意味もないのだけれど。

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