きみと秘密を作る夜
夏休みは過ぎていく。
前の学校で友達だった子たちとは、最初は連絡を取り合っていたけれど、それもいつの間にかなくなっていた。
きっともう、向こうでは、私は『過去の人』になってしまったのだろう。
でも、私はこの世から消えてしまったわけじゃなくて、新しい人生を、今日も生きているのだ。
朝起きて、カーテンを開けたら、窓越しにある隣家のカーテンも、ほぼ同時に開いたから驚いた。
窓越しに目が合う。
私は笑いながら窓を開けた。
「おはよー、晴人ー」
向こうの晴人も仕方がなさそうに窓を開ける。
「そこって晴人の部屋だったんだね。私たち、部屋も隣同士なんだね」
窓と窓の距離は、1メートルと少しくらいだろうか。
互いに身を乗り出して手を伸ばせば、簡単に届きそう。
しかし晴人は、変なのになつかれたとでも言いたげな顔だ。
「お前、俺の部屋覗くなよ」
「はぁ? それって女子の私が言う台詞じゃない?」
「誰がお前の部屋なんか覗くかっつーの」
嫌味は聞き流しておく。
「ねぇ、それよりさ、今日、暇でしょ?」
「決め付けるな」
「私、暇なんだよね。だからさ、このへん案内してよ」
「知らねぇよ。ひとりで散歩でもしとけ」
相変わらずな態度。
でも私だって負けない。
「私さ、毎日毎日、家にいても、することないんだよね。だからってひとりで出掛けてまた迷子になるのも嫌だし」
「それで何で俺が巻き込まれてんだよ」
「だって、私、こっちで他に知り合いいないんだもん」
私の言葉に、しばしの後、晴人は深いため息を吐き、「その代わり、何か奢れよ」と言った。
思わずまた笑ってしまった。
この町にきて、初めて本気で笑った気がした。