きみと秘密を作る夜
着替えて、朝ご飯を食べて、外に出ると、晴人はちゃんと私を待っててくれていた。
当たり前みたいに自転車の後ろに乗る私を見て、晴人はがっくりと肩を落とす。
「お前さぁ、自分のチャリは?」
「パンクしてんの」
「直せよ」
「自転車屋さんってどこにあるの? お母さん、忙しそうだから聞けないしさ。おばあちゃんには頼めないもん。仕方ないでしょ」
「で、また俺に漕がせる気かよ」
「ねぇ、私、涼しいところに行きたい」
「いや、聞けよ、俺の話」
ぶつくさ言いながらも、晴人は自転車を漕ぎ始めた。
空には入道雲。
木々から蝉しぐれが響き渡る。
「今日も暑いね」
「夏は暑くて冬は寒いだけの町だしな」
「つまんなくないの?」
「生まれた時からこれが当たり前だったし、よくわかんねぇ」
「まぁ、そうだよね。私も引っ越すまでは、その環境が普通だと思ってたし」
「まさかコンビニ行って道に迷うことになるなんて、って?」
「ね?」
体を反らして空を仰ぐ。
視界を遮るものは、何もない。
「でもさ、私、空がこんなに広いなんて、今まで知らなかったよ?」
その青さが眩しくて、私はひどく目眩がした。