きみと秘密を作る夜
小さく舌打ちし、背を向けたのは晴人だった。



「興味ねぇよ、そんなやつ。それより、遅れたらまた店長にキレられるぞ。俺は先に行くからな」


言い捨て、晴人は歩き出す。


どうしてこんなことになっているのだろう。

状況に思考が追い付かない私は、それを表情に出さないことだけで精一杯だった。



「ごめんな、リナ」

「え?」

「もうちょっと一緒にいたかったけど、俺ももう行かなきゃ」

「あ、うん。大丈夫。頑張って」


手を振って、遼を見送る。

遼は小走りで、前を歩く晴人へと駆けていく。


ふたり並んだ背中が、遠くなっていく。



「どうして……」


私はその場にくずおれた。



幸せになりたかったのに。

遼となら、そうなれると信じていたのに。


それなのに、ここはあの田舎町じゃないのに、なのにどうしてこうも、世間は狭いのだろう。

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