きみと秘密を作る夜
彼には、実は奥さんと子供がいたらしい。

その奥さんはあさひのバイト先まで乗り込んできて、泥棒猫だの何だのと、わめき散らした。

もちろんあさひは彼が既婚者だとは知らなかったが、騒ぎを起こしてしまった上に、内容が内容だけに、反論も許されずにその場でバイトをクビになった。

おまけにそこで知ったことだが、彼は25歳だと聞いていたのに実際は28歳で、仕事も名前も、何もかもが嘘だったそうだ。


あさひは、うすうすは彼が浮気をしているのではないかと疑っていたが、しかし二番目は自分の方で、しかも浮気ではなく不倫だったことにひどいショックを受けていた。



「相手は社会人だから、私が我慢しなくちゃいけないって思ってた。好きだからそれでもいいって思ってたのに」


それ以上は言葉にならず、あさひは何度目かの涙を見せる。


彼の奥さんは、後にあさひも騙されていたのだと知り、非礼を詫びて帰って行ったそうだ。

しかしそれであさひの心の傷が消えるわけもない。



「こんなのひどいよ! だったら私とあの人との今までは何だったの!? 私が一緒にいたのは誰!? 文句言ってやりたいのに、名前もわかんないよ! 私もう何も信じらんない!」


あさひの悲痛な叫びが痛い。

信じていた人に裏切られる辛さは、私にもわかる。



「あさひ」
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