きみと秘密を作る夜


遼に連れられたそこは、大通りから奥まった場所にある、看板もないバーだった。

店内も薄暗いし、思いっきり怪しい。



「おー、遼。どうした? 今日は両手に花だな」

「羨ましいっしょ」


そんな中でも、遼はパンクみたいな人と、仲よく話している。


遼は普段、こういう店に出入りしているのか。

そういう話は一度も聞いたことがなかったので、何だか私は不安になった。



「こっち」


遼に招かれ、私とあさひは奥の席へと向かう。



「座って。何飲む? 適当でいいなら持ってくるけど」

「任せるよ」


あさひの言葉に、遼は「じゃあ、待ってて」と言って、再びカウンターの方へと戻って行く。

それを見送ったあさひは、私に声を掛けた。



「私、こういうとこ初めて。何かちょっとドキドキするね」

「気持ちはわかるけど、あんまり遅くならないうちに帰ろうね?」

「きたばっかじゃん。まだ帰る話はしなくていいでしょ」


あさひは完全にはしゃいでいた。

私は、嫌な予感が増すばかりだったが、しかしすぐに遼が笑顔で3人分のビールを運んできた。



「おまたせー。店長に交渉して、お菓子サービスしてもらったんだー」


無邪気に笑う遼。

お酒なんか飲む気にもなれなかったが、あまり口うるさくしてこの場の空気を壊すわけにもいかず、仕方なく私も一緒に乾杯した。

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