きみと秘密を作る夜
「ほんとに結構ですから。ご心配ありがとうございます」


とにかくトイレの中にでも逃げ込んで、そこで遼に電話をしようと思った。

が、男がそれを許してくれるはずもない。



「えー? 俺そんなに信用ない? ひどいなぁ」


男はあさひの腕を掴もうとする。


このままだとやばい。

私は咄嗟に声を出していた。



「やめてよ! あさひに触らないで!」

「あ?」


男の形相が、一瞬にして歪んだのがわかった。

私は体の震えが止まらなかったが、しかしあさひを危険な目に遭わせることだけはできなかった。



「てめぇ、人が優しくしてやってりゃ、偉そうに」


今度は私の腕が掴まれた。

すごい力で引かれ、よろけた私は、思わずあさひを支える手を離してしまう。


咄嗟の揺れにあさひはびくりと肩を浮かし、同時にはっと我に返ったらしい。



「……リナ?」


何が何なのかという顔だ。

男は私の腕を掴んだまま、舌打ちする。



「ふざけんなよ、てめぇ。こいつ、起きちゃったじゃんよぉ。俺の計画が台無しだろ。てめぇが素直に言うこと聞かねぇからだよ」

「離して」


声が震える。

抵抗したいのに、体に力が入らない。



「リナぁ!?」


あさひは状況の理解ができないのか、混乱したように泣き出した。

男はさらに顔を歪める。



「めんどくせぇ。もうてめぇでいいよ」

「ちょっ、やっ」


男は私を、トイレの個室に引きずり込もうとする。

連れ込まれたら何をされるかなんて、考えたくもない。



「リナぁ!」
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