きみと秘密を作る夜
あさひの涙声が響いた時だった。



「おい!」


別の男の声に、私たちは同時に振り向く。

晴人だった。


晴人は状況を見て取った瞬間にすべてを理解したらしく、私の腕を掴む男の手を掴んだ。



「おい、そいつから手離せよ」


それでもなお、男はにやにやしたまま。



「何だよ、ハルかよ。お前も混ざりてぇの?」

「ふざけんなよ。殺すぞ」


晴人は男の胸倉を掴み上げた。

驚いた男も、「痛ぇな、こらぁ!」と、晴人に掴みかかる。


揉み合いの中で、トイレの前に置かれた観葉植物が倒れたと同時に、「きゃあ!」とあさひの悲鳴が響いた。



「どうした?」

「何かあった?」


声を聞きつけてふたりが駆けつけた瞬間、晴人に胸倉を掴まれていた男は、急に青ざめ、動きを止めた。


駆けつけたふたりのうちのひとりは、パンクみたいな店長だった。

店長も、先ほどの晴人同様、この状況を見て取り、すぐにすべてを察したらしい。



「これは何の騒ぎだ? あぁ?」

「いや、あの……」

「てめぇ、まさかまた、女さらおうとしたんじゃねぇよなぁ? 次にうちで同じことしたら命ねぇって言ったよな?」


すごんだと同時に、店長の蹴りが男の腹部を捕らえる。

元々、酔っていたからか、それとも急所に入ったからか、一撃で男はくぐもった声を上げながら、うずくまった。


喧嘩なんか初めて見た私とあさひは縮み上がったが、



「悪かったね」


とだけ、店長は言い、ふたりががりで男を引きづっていく。
< 168 / 272 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop