きみと秘密を作る夜
何が何だかわからないが、とにかくもう大丈夫ということだろう。



「リナぁ!」


ほっと安堵したからなのか、あさひは私に抱き付き、また泣き始めた。

晴人は少し向こうで、ため息混じりに髪を掻き上げる。


騒ぎを聞きつけたのか、店内にいた人たちが集まってきた。



「あさひ、落ち着いてよ。もう泣かないで」


私は、とにかく早く、この場所から離れたかった。

だからあさひを慰めるのもそこそこに、体を支えて立ち上がらせる。


と、その時。



「リナ! あさひ!」


人波を掻き分け、血相変えた遼が。



「だだだ、大丈夫!? ちょっと外で電話してたら、何かすっごい騒ぎになってるって聞いて」


しかし、私が何か言うより先に、晴人が遼の肩を掴んだ。

晴人はひどく怒った顔。



「だからこんな店に女連れてくるなって言ったんだよ。自分で守れもしねぇのに偉そうにカレシ面してんじゃねぇよ」


低く吐き捨て、晴人は遼の肩を突き飛ばして、私たちに背を向ける。

一瞬、驚いた顔をした遼だが、はっとして私たちへと向き直った。



「け、怪我は?」

「大丈夫」


私は、そうとだけ言い、あさひの手を引いた。



「帰ろう、あさひ」


あさひはすすり泣きながらうなづくが、



「リナ!」


声を上げたのは、遼。

遼は、今度は焦った顔で、私を制した。



「ちょっ、ちょっと待ってよ。お、送るから。だから頼むからちょっと待っててば」


遼が心配してくれる気持ちはわかる。

けれど、今はどうしてだか、そんな遼がうざったかった。



「ごめん。今は遼の顔見てたくない」
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