きみと秘密を作る夜
意を決し、私も幹に足を掛ける。

ゆっくり、ゆっくりと登っていると、晴人は私に向かって手を伸ばした。



「掴まれ、里菜子」


伸ばした手を掴まれ、最後は晴人に引っ張り上げられた。

大きな枝の上で息をついていると、今度は視界を遮るもののない景色が見えた。



「何これ、すごい」


海の向こうまで、ちゃんと、はっきり見える。

思わず興奮する私。



「すごーい!」

「だろ? ガキの頃に見つけたんだ。誰にも教えてない、俺だけの特別な、秘密の場所」


高い場所に立ち、町を見下ろしていると、何だか自分が特別に思えてくる。

隣の晴人も、誇らしげな顔に見えた。


自然の、涼しい風が吹き抜ける。



「あそこが俺らの家。で、あれが駅で、あっちが俺が卒業した小学校。自転車屋は、あの青い屋根な」


何もかもが、ちっぽけに見える。

私の悩みすら、きっとちっぽけなものなのだろう。



「私さ、最初は、何でこんなとこで暮らさなきゃいけないんだろうって思ったの。はっきり言って田舎だしさ。何もないし?」

「………」

「でも今は、自分がこれから暮らしていくこの町を、ちゃんと好きになりたいって思ってる」
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