きみと秘密を作る夜
「え……」


驚きで固まる遼を視界の隅に、私はあさひの手を引いて、店を出た。


遼は追いかけてはこなかった。

あさひの涙は夜風で乾いたらしく、とぼとぼと歩く駅までの道中で、「ごめん」と小さく謝られた。



「ごめんね、リナ。リナがいなかったら、私どうなってたか」

「もういいけどさ。でも、失恋して辛いのはわかるけど、これに懲りたらもうハメを外したり、無茶なことはしないで」

「うん。もう絶対しない」


鼻をすすりながらも、あさひは強くうなづく。

私たちの繋いだ手に、やっと体温が戻ってきた。


そこでふと、あさひは言った。



「そういえば、ハルくんだっけ? あの時、助けてくれたのに、お礼言えてなかったね」

「そうだね」

「女癖悪いみたいに言われてたし、顔怖いけど、あんな危ないとこ助けてくれるなんて、普通はできないよね」


そうだね。

だから私は、晴人のことを嫌いになりきれないのだ。


私を、簡単に切り捨てたような男なのに。



「ねぇ、でも、よかったの?」

「何が」

「遼のことだよ。私の所為だけどさぁ。でもあんな、突き放すみたいな言い方しなくても」

「いいの。あさひが気にすることじゃないよ」


話しているうちに、駅に着いた。

あさひはまだ何か言いたそうだったが、終電の時刻が近い。


私たちが乗る電車は反対方面のため、ここで別れるしかなかった。



「ちゃんと帰れる? 家に着いたら連絡してね?」

「リナ、カレシみたい」


最後はあさひの顔にも少しだけ笑みが戻ったようだ。

アナウンスが響く駅構内で、私たちは手を振り合った。

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